デザインという言葉の意味するところは広く大きい。意識をしていなくても、さまざまなデザインの中で私たちは暮らしている。そのなかでも、20世紀に頭角を現したインダストリアルデザインの世界にはスーパースターと呼べる偉大なデザイナーの存在が見受けられる。それは、同じく20世紀に大きく発展した映画というコンテンツに置き換えて考えてみれば理解しやすいだろう。映画の楽しみ方として、多くの人は話題の大作だからという理由で観に行く。だが、もうすこし映画に対する感度が高い人は、あの監督が撮っているから観るという積極的な選択と行動に出るはずだ。たとえば「私はスタンリー・キューブリックの映画ならすべて観ている」とか、「クエンティン・タランティーノの新作には驚かされた。やっぱり彼はヤバい」などなど。真の映画ファンは、映画監督の作家性を享受するセンスを持っている。同じようにインダストリアルデザインの世界に長けた人は、自分自身のアイデンティティを投射できるヒーローとしてのデザイナーを知っている。その作品は、デザイン好きにとって単なるグッドなデザインではなく、もっと自分をハイにしてくれるデザインなのだ。