TIC TAC

オトコの腕時計、ここにあり。

男前コラム 06.
機械の鼓動を感じていたい。 メカニカルウォッチ

Photo & Text:Gandhara Inoue

オトコとは、おしなべて機械モノが好きな生き物です。その王道を疾走するアイテムといえばクルマですよね。昨今では、若い世代のクルマ離れが話題になっています。でも、その理由は日本自動車工業会の調査によれば、クルマそのものが嫌いなんじゃなくて、維持費などの経済的な負担によるものらしい。世代を超えて、どうやらオトコはクルマに惹かれているようです。

Function  © Gandhara Inoue

Mechanism © Gandhara Inoue

クルマの楽しさのひとつは、複雑で馬力のあるメカニズムの発する鼓動を身体で感じられることではないでしょうか。この観点では、最近のクルマは車内があまりにも静寂になり、電池駆動の車種ではエンジン音などは皆無なのが寂しいというか物足りないというか、メカと自分が共にいる感じが薄い気がします。

これって、腕時計にも言えることではないでしょうか? 電池で動くクォーツ制御の腕時計って、耳を澄ませば秒針の動く音が聞き取れる場合もありますが、おおむね無音です。本当は腕時計の中にあるクォーツは1秒間に3万回以上の周波数で発振しているんですけど、その挙動を人間の脳は知覚できません。

それに対してメカニカルウォッチは、1秒間に4回とか5回、あるいはハイビートと呼ばれる機械なら10回振動する小さな振り子を持っています。腕時計を耳に押し当てればTiCTACと時を刻む音がする。自分の持ち物が、どのように動いているかをいつも感じさせてくれるから、機械式の腕時計には愛着や信頼感が芽生えるのだと思います。

ガンダーラ井上
ライター
ガンダーラ井上

1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒。松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間務める。在職中から腕時計やカメラの収集に血道をあげ、2002年に独立し「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「日本カメラ」「ENGINE」などの雑誌やウェブの世界を泳ぎ回る。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。

男前WATCH 06.
メカニカルウォッチ

世の中の仕組みが高度化すればするほど、中身がどのように動いているかを知ることは難しくなるもの。機械式の腕時計にすれば、精密な振り子がTiCTACと音をたてて働くシンプルなメカニズムが、張りつめた気持ちをほぐしてくれますよ。